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評価のメカニズム(疲労/疲労感の評価に関して)

 疲労および疲労感は、高度に発展した現代社会に生きる多数の人々が日常向き合っている現象であり、人類普遍的な重要な問題であります。

 これまで、運動後の疲労や疲労感の研究は、特にマラソンなどの長距離走のスポーツ科学の面から、また、過労を視界に入れた労働衛生の観点から、研究が成されてきましたが、このメカニズムについても、未だ不明な部分が多いのが実情です。

 この理由は、これまでは疲労/疲労感の評価はvisual analog scale(VAS)やアンケート用紙などを用いた主観的な評価によってなされており、客観的に評価できる「ものさし」のような尺度が見出されていなかったためと考えられています。

 このような状況の中で、さまざまな分野の研究者の協力を得て包括的な疲労研究を望める「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその制御に関する研究」(文部科学省:生活者ニーズ対応研究(http://www.hirou.jp/))(代表研究者:渡辺恭良)が21世紀の先駆的な研究として1999年に採択され、この研究の中で疲労/疲労感を客観的に評価できるいくつかの方法が明らかになってきました。


疲労/疲労感の客観的な評価

1.行動量や反応時間、睡眠・覚醒リズムなどの生理学的評価

2.脳機能の低下の評価

3.血液検査による生化学的評価(アミノ酸、サイトカインなど)

4.血液検査による内分泌・免疫系の評価

5.末梢血細胞におけるDNAチップ解析

6.ウイルス学的評価

7.近赤外線主成分分析を用いた疲労解析

8.自律神経系の機能解析 心拍変動解析

 これらの研究は、これまで北大、東大、京大、阪大、大阪市大、九大などの施設が参加して進められてきたものであり、現在は大阪市大が中心になって研究開発が進められていますが、詳細は以下のホームページを参照して下さい。

 

下記リンク先をクリックして頂きますとホームページをご覧になることができます。

文部科学省生活者ニーズ対応研究

大阪市大医学部疲労クリニカルセンター

株式会社 総合医科学研究所

健康科学イノベーションセンター(公立大学法人大阪市立大学)


疲労科学研究所の取り組み

 疲労科学研究所では、疲労を測定するものさしと呼べるようないくつかの器具(当社で扱っている商品の紹介を参照)を取り揃えており、皆様に提供致しております。

1.行動量や睡眠・覚醒リズムのアクティグラフを用いた評価

 弊社では、アクティグラフ取り扱い特約店として、1.行動量や睡眠・覚醒リズムの評価について現在積極的に取り組んでおり、日本における健常者データ(20~50歳代、男女別)の収集と解析を行い、年代ごとの健常者データを保持して被験者の解析業務が可能な状態にあります。

アクティグラフ

 この装置は、0.01G以上で2~3Hzの周波数の体動による加速度変化を測定いたします。 2~3Hzの加速度変化が、睡眠覚醒の判定に最も適していると言うことが知られております。 加速度が閾値を超える、もしくは割り込む回数を60秒間積算し、毎分の累積回数をメモリーに記録いたします。 それらの加速度変化カウントデータにColeらの判定式を用いると、睡眠・覚醒について判定できます。

 Coleらの判定式は、米国睡眠学会を始め広く認められている判定式で、睡眠ポリグラフとの比較でも90%前後の精度で睡眠・覚醒について判定できるものです。 右のグラフが実際のデータを示しています。

 ここには健常人のデータを示しております。横軸が測定時間を示しております。

 1日目正午より始まり、毎分ごとの加速度変化カウントが棒グラフとして連続して示されております。 水色で示されている部分は臥床している部分です。

 横軸に赤でマーキングされている部分はColeらの判定式で眠っていると判定されている部分です。 覚醒中は、おおよそ200回毎分のカウントが見られておりますが、睡眠中は体動が減少していることが分かります。

アクティグラフを用いて解析が可能な項目

1.睡眠、覚醒の時間と活動量、日内リズム、日中の居眠り回数

2.入眠潜時(横になってから寝付くまでの時間)

3.睡眠中の活動量、中途覚醒の回数、睡眠効率

 

アクティグラフデータ解析

 米国AMI社製アクティグラフィ解析ソフトウェアAW2を用いて、覚醒中・睡眠中それぞれの平均活動量、就床から入眠に至るまでの時間である入眠潜時、臥床時間に占める睡眠時間の割合である睡眠効率、覚醒時の居眠り回数、睡眠時の中途覚醒回数、24時間中の総睡眠時間・総覚醒時間などの解析が可能です。

アクティグラフを用いた最近の知見

 第2回日本疲労学会(2006.07.22-23)シンポジウム「疲労のバイオマーカー」アクティグラフ、アクティブトレーサーを用いた客観的疲労尺度開発の試み(田島世貴、倉恒弘彦ら)より引用 

代表的なデータ

代表的なデータを示します。 横軸が測定時間、縦軸に活動量、水色の部分が臥床している部分、赤でマーキングされている部分が睡眠と判定されている部分です。

 慢性疲労患者では主に、図のような4つのパターンが見られています。

 症例1は長時間睡眠をしているパターンで、一度睡眠にはいると10時間以上睡眠が見られています。さらに、日中にも昼寝をしていることが分かります。

 症例2は睡眠相が後退しているパターンです。深夜2時頃に就床し、午前11時頃に起床しています。このタイプでは睡眠時間が長いこともしばしばです。この例では中途覚醒をともなっています。

 症例3では、不眠による断続的な睡眠をしているパターンで、一度寝ても短時間で覚醒し、一日に何度も睡眠をとっているタイプです。

 症例4は、一日中横になっているパターンです。 

アクティグラフ解析結果1

 解析の結果です。 健常人44名、CFS患者45名の各群について、ボックスプロットとメディアンを示しています。

 覚醒時平均活動量は健常人で212.8回毎分、CFS患者群は175.7回毎分で、有意に患者群が低くなっています。

 居眠り回数については、健常人で1回、CFS患者群は6回で、患者群が有意に多くなっていました。

 Korszunらの報告では、繊維筋痛症患者でうつを伴わない群と健常者では、これらの値に有意な差はないとされておりましたが、今回の結果ではうつなどの精神科的問題を伴わないCFS1群のみと健常人の比較でも同様の有意差が見られています。


アクティグラフ解析結果3

 睡眠時平均活動量の解析では、健常人は8回毎分、CFS患者では9.5回毎分と患者がやや多い傾向を示しています。 睡眠中の中途覚醒回数は、健常人で4回、CFS患者が5回とCFS患者の方が有意に多く中途覚醒をしています。         

アクティグラフ解析結果4

 1日における睡眠時間と覚醒時間の比較です。 覚醒時間については、健常人が1044.5分、CFS患者群は911分で、CFS患者の覚醒時間が有意に短くなっています。 睡眠時間については、健常人が395.5分、CFS患者は529分で、CFS患者が有意に長くなっています。


2.近赤外線主成分分析を用いた疲労解析

 大阪大学微生物病研究所 生田和良、作道章一、関西福祉科学大学 倉恒弘彦の3名はごく最近近赤外分光法を用いた疲労診断が可能であることを発見し、弊社が特許出願を行いその臨床応用の可能性について研究を進めています。

近赤外分光法とは

 近赤外分光法(Near-infrared spectroscopy ,NIRS)は近赤外光(700-2500nmの領域の光)を使用する分光法である。特に、可視―近赤外領域の650-1000nmは「光の窓」と呼ばれており、生物学的なサンプルの測定には最も適した領域である。すなわち、650nm以下および1000nm以上の領域ではヘモグロビンと水の吸収が圧倒的に大きいため、水やヘモグロビン以外の分子についての情報を得るのが難しいためである。

 一方、650nmから1000nmの領域ではヘモグロビンと水の吸収が小さく、水やヘモグロビン以外の分子の変化も分析することができる。一般に近赤外領域での分子の吸収は、水素原子を含むCH、OH、NHなどの原子団の伸縮・変角振動による吸収の倍音や結合音に起因する。

 しかし、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、酸化シトクロムc、ビリルビンについては近赤外領域に独特の吸収スペクトルを持っており、それ自身の吸収が近赤外領域にも存在する。

 最近では、アルブミン、コレステロール、グロブリン、グルコース、タンパク質、尿素、クレアチン、ウイルス、乳酸、トリアセチン、トリグリセリド、βリポ蛋白のような生物学的に重要な分子が近赤外分光法によって測定できる可能性が検討されている。

最近の発見

 近赤外分光法を用いることにより果実の糖度を簡便に計測することができることはよく知られているが、ごく最近大阪大学微生物病研究所 生田和良教授は血液を対象に近赤外分光法を用いたところ、血液中にウイルスが混入しているか否かを簡便に判別することができることを発見した。

 そこで、我々は以前よりウイルス感染説が考えられていた慢性疲労症候群患者の血液について検討を行ったところ、血液中にウイルスの混入を認めることがなかったが、疲労患者に特有のパターンが存在することを発見、特許として申請を済ませた。

 この判定法を用いることにより、疲労病態のみならず、生活習慣病やいくつかの癌などの診断にも有用であることが判明してきており、現在実用化に向けた臨床研究を進めている。

臨床研究結果


慢性疲労症候群に関する新聞記事

朝日新聞 3面(総合) 2006年(平成18年)5月14日
文献 作道 章一ほか. 近赤外分光解析を用いた診断法 総合臨床 特集 疲労・倦怠 55(1)70-75、2006


3.自律神経系の機能解析 心拍変動解析

 疲労病態では、交感神経系の緊張が高まり、副交感神経系の活動が低下することが報告されており、自律神経系の解析は極めて重要な検査の1つである。自律神経系の解析には、心電図のRR間隔の解析や、脈波、速度脈波、加速度脈波を用いた心拍変動解析が有効であることが良く知られており、弊社では心電図のRR間隔の解析(アクティブトレーサー、㈱GMS)、速度脈波を用いた心拍変動解析(米国BIOCOM社製ハートリズムスキャナー)、加速度脈波を用いた心拍変動解析(アルテット、㈱ユメディカ)を取り揃えて提供している。

 2006年5月に大阪市が実施した「健康・予防医療リーディングプロジェクトに係わる産学連携による新商品開発事業」に、弊社が大阪市立大学大学院医学研究科COEプロジェクトとの共同研究米国BIOCOM社製ハートリズムスキャナーを使用して、「疲労の定量化と疲労回復効果の測定システムの開発」というテーマを申請したところ、7月に採択が決定した。

 また大阪/IBPC大阪企業誘致センター主催の「バイオビジネス関連産業ビジネスプランコンペOSAKA2006」にてBIOCOM社製ハートリズムスキャナーがグランプリを受賞した。

ここでは、加速度脈波を用いた心拍変動解析(アルテット、㈱ユメディカ)を用いた疲労の解析結果を紹介する。

指尖加速度脈波

図左 指先容積脈波(青)と加速度脈波(赤)の波形、図右 指先加速度脈波の計測風景。アルテット(㈱ユメディカ)を用いた指先加速度脈波の計測は簡便であり再現性が高い。 

慢性疲労症候群における加速度脈波a-a間隔の低周波成分/高周波成分比の増加

 アルテット(㈱ユメディカ)を用いて指先加速度脈波を2分間計測、最大エントロピー法による周波数解析にて自律神経系の評価を行った。健常者(安静時 座位)では交感神経系成分(LF)と副交感神経系成分(HF) の比(LF/HF)は通常1~1.5程度であるのに対して、慢性疲労症候群患者では明らかに増加していることがわかる。

精神作業疲労による加速度脈波a-a間隔のLF/HF比の増加と緑の香りの作用

 健常者(コントロール)に精神作業付加を加えた場合も、交感神経系成分(LF)と副交感神経系成分(HF)の比(LF/HF)は増加する。しかし、緑の香りをかがせた場合には、交感神経系の緊張を予防することができることが判明した。